【余命10年】小坂流加
現代の医療では治せない病になってしまったら、余命10年だと知ったら、自分はどう生きるだろうか?
私を含め、多くの人は、ただ命が続いていくことを疑っていない。
そして、気付いたとしても、明日には忘れてしまうのだ。
この物語は、余命を伝えられたことで人生を楽しむことを封印し、自分よりも周りの空気を優先させてしまう茉莉と、何事も器用にこなせるが故に何かに熱中すること、そして茶道の家元という血筋から逃げている和人の10年の物語だ。
作者は主人公と同じ病を患っている女性で、この刊行を待たずに逝去されているそう。小松菜奈と坂口健太郎主演の映画にもなっている。
何度も涙をこらえながら読んでいた。
茉莉は、「死への準備を始めなければ」と、自分の死を和人に背負わせないために、恋人となった和人と別れることを決める。和人の幸せを最優先に祈りながら。
やっと2人の想いが通じたのに、ハッピーエンドにはならない。
2人が近付けば近付くほどに、死ぬことに怯える。
たとえ余命が決まっていても、「その時」は突然訪れるかもしれないし、ゆっくりじわじわと忍び寄ってくるのかもしれない。誰にも分からない。
ひとりの病室で、死に対峙するのは本当にしんどいことだと想像する。「いっそのこと」と思うのも無理ないのだろう。
一時でも和人と恋をすることで、茉莉が自分自身に戻って、安らいで人生を楽しんでくれていたことが、せめてもの救いだ。
想像することしかできないけれど、こういう世界があるのだな、などと平和な私は考える。